ジヴェルニー、チューリップ咲くモネの庭の春 4月

ジヴェルニーのモネの家と庭は、今や年間75万人(2023年)もが訪れる世界的な観光地です。もっとも、その庭園が公開されるのは毎年4月1日から11月1日まで、春から秋にかけての花のある時期に限られています。

「私が画家になったのは、花のおかげかもしれない」とは、印象派の巨匠モネが語った言葉ですが、ジヴェルニーの庭が圧倒的な「花の庭」であることが、公開時期を限定する理由でしょう。では、その数ヶ月のなかでもいつ行くのが一番良いのか?ということにもなりますが、春のスプリングエフェメラルたちが花開き、サクラやリンゴの花が咲き始めたら、次々と花の開花リレーが始まるので、いつ行くのも魅力的、、、という答えにならない答えとなってしまいます。

とはいえ、4月中旬のチューリップの時期のモネの庭は、夏に比べてまだまだ緑も花数も少ないものの、モネの庭らしいフレッシュな魅力に溢れるタイミング。

ジヴェルニー、モネの庭

チューリップ咲き乱れる、春のモネの庭

この時期は、庭に入ったとたんにまず、あらゆる色合いや形のチューリップを一堂に集めたのではないかと思われるほどの、溢れんばかりのチューリップとその色彩に圧倒されます。

モネの庭、チューリップ
バラ色の邸宅の近くには、ピンク系のチューリップが群をなす。

モネの庭、ジヴェルニー
少し離れると黄色〜オレンジ、赤系のグラデーションのチューリップたち。

モネの庭、ジヴェルニー、チューリップ
花の庭の基本の構成は、伝統的なポタジェ(菜園)に見られるような、長方形の栽培区画をきっちり並べたフォーマルな形です。それぞれの植栽区画は、もちろんチューリップだけでなく、パンジーやビオラ、プリムラなどの春の花々、しばらくしたら花開くであろう新芽を伸ばしているところのシャクヤクなど、開花のリレーを担う花々がバランスよく仕込まれつつ、かなり厳密にそれぞれのテーマカラーで統一されています。

モネの庭

されど、全体を眺めるときには、そのあらゆる色彩が一度に目に飛び込んできて、ちょっと驚くほどです。絵の具箱をひっくり返したような、としばしば形容される、無秩序なまでに自由に入り乱れる色彩が飛び出すビックリ箱のよう。よくここまで思い切って花々を散りばめたものだ、と感心してしまいます。落ち着いてディテールを確認すれば、一つ一つの区画の色彩は統一感をもってきちんと管理されているのですが、全体を見渡すと、無数の色彩のかたまりがキラキラと散りばめられたような効果が生まれます。チューブの絵の具の色彩が絞り出され、あちこちでませ合わった、まさに画家のパレットのよう。そこに現れるのは、フランス的なフォーマル・ガーデン、イギリス的なコテージ・ガーデンといったスタイルの枠を超えて、画家モネの世界観が体現されているといっても過言ではないでしょう。

春を告げるリンゴの花と

モネは野菜などを育てることにはあまり熱心ではなかったようで、取り払われた果樹なども多かったようですが、それでもリュスティック(田舎風)を演出するかのような、フランス的なポタジェ(菜園)には欠かせない、エスパリエ仕立てのリンゴの木に囲まれた小さな果樹園も、フランスの田舎の庭らしい魅力を添えています。

モネの庭、エスパリエ仕立てのリンゴ
やはり春を感じさせる、少しローズがかった白っぽいリンゴの花々が、この時期だけの庭の魅力を盛り上げます。


花咲くリンゴの木の下にも群生するチューリップ。後ろのローズ色の壁はモネの家。
この時期ならではの風景です。

果樹園エリアの一角には、立派かつ可愛らしいスイセンたちがまだまだ元気に咲き誇り、早春から盛春へと移り変わる季節を感じさせます。

モネの庭の魅力

ちなみにモネがジヴェルニーの邸宅を借りて移り住んだのは彼の人生の折り返し地点であった43歳のとき、その後、画業が順調に世に認められるようになり、財政状況も好転して数年後には土地と邸宅を買い取って、ようやく自分の庭を持つことになるのです。本格的な庭づくりはこの「クロ・ノルマン」と呼ばれる、邸宅を囲む庭を花でいっぱいにすることから始まりました。やがて、珍しい植物をそこかしこから取り寄せ、何人もの庭師を雇って繰り広げられるモネの庭づくりですが、最初はモネ自身と、子どもたちも手伝って、自分たちで作り始めた、まさにマイホームのマイガーデンだったといいます。

モダンアートの巨匠のたぐいまれなる美意識があり、「戸外に延長されたアトリエ」となっていったモネの庭ですが、同時にそこには、大人から子どもまで誰もが共通に楽しむことができる、草花を植えて咲かせるガーデニングの楽しみ、が常にあったはずです。こんな風に恐れず、自由に好きな花々を植えてみてもいいのかも、と、定型の庭のスタイルを超えた、自由な感性で花々の魅力を感じさせてくれるのが、モネの庭の大きな魅力のひとつといって良いのだろうと思います。

 

 

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