ベルサイユ宮殿のオランジュリー [その2]

夏のフランス庭園を彩る柑橘のコンテナー

春が本格化する5月、ベルサイユ宮殿の庭園の劇的な変化のひとつがオランジュリーの庭園の風景です。

冬の間、建物の中にしまわれていた1500本のコンテナー栽培の柑橘木が野外に配置されたオランジュリーのパルテールは一気に華やぎを増して、暖かな季節になったことが改めて感じられます。

オレンジやレモンなどの柑橘類の他にも、キョウチクトウやヤシ、ザクロの木など、南国を思わせる木々の中には、樹齢200年にもなる古木もあり、圧巻です。

オランジュリー、ベルサイユ宮殿

ベルサイユ、世界最大級のオランジュリー

オランジュリーはヨーロッパの北方の国々で、南欧から伝わった柑橘類などを冬の寒さから守り栽培するために作られた、温室の原型となった建物です。

オレンジの花のかおりをこよなく愛したルイ14世が建築家ルイ・ル・ボーに命じてベルサイユ宮殿の庭園にオランジュリーを作らせたのは1663年。早くも20年後にはアルドワン・マンサールによってさらに拡張された建物が、現在まで継承される世界最古・最大級のオランジュリーとなっています。

17世紀、ヨーロッパ随一の柑橘コレクション

寒さが厳しい土地での柑橘類の栽培には、整った設備と高度な技術が必要ゆえに、オランジュリーとそのための植物を所有することは当時のステイタス・シンボルでした。ルイ14世はイタリア・スペイン・ポルトガルなどの南欧の国々から柑橘の木々を次々と取り寄せ、また宮廷の家臣たちも素晴らしい柑橘木があれば、我先にと王に贈呈し、あっという間にヨーロッパ随一のコレクションが誕生しました。

オランジュリーの柑橘、ビターオレンジのかおり

ところで、ルイ14世は晩年になると嗅覚アレルギーを発症してしまうのですが、その際に唯一受け付けることができるかおりとして残ったのは、オレンジの花のかおりだったのだとか。

オレンジ・柑橘類の香りは様々ですが、例えばベルサイユ宮殿のオランジュリーでも栽培されているダイダイ(橙、ビターオレンジ)のかおりは、シャネルの香水のベースとなった5つのかおりのうちのひとつにもなっています。

ビターオレンジ
今春のチュイルリー公園でのガーデンショー、ジャルダンジャルダンのシャネルのオランジュリー・ガーデン。背景に見えているのは、現在はモネの睡蓮の部屋で有名な美術館となったオランジュリーの建物。ケースをテキスタイルで覆って配置されているのは、ベルサイユ宮殿のオランジュリーから展示のために貸し出しされたビターオレンジのコンテナー仕立てです。

ビターオレンジの果肉はマーマーレードに、花からはエッセンシャルオイルの「ネロリ」、葉っぱの部分は「プチグレン」のかおりが抽出されるという、珍重されたのも納得できる大活躍の柑橘です。ちなみに、ベルサイユ宮殿ではオランジュリーでの冬囲いが必須ですが、南仏の比較的温暖な土地では地植え栽培も可能です。現在は香水の産地として知られる南仏のグラースは、かつては革手袋の一大産地で、革手袋の皮革の匂いを緩和するために使われたビターオレンジの栽培も盛んだったのだそうです。近代になってからは香りの分野でも化学的な調合が優位となって、ビターオレンジの使用量は激減し、その栽培も殆ど消えかけていたところを、現在シャネルとその契約農家の共同プロジェクトで、700本のビターオレンジの苗木が植えられ、自然からの恵みとしての香りのためのサスティナブルな無農薬栽培のオレンジ畑が作られつつあるのだそうです。

チュイルリー公園にもコンテナー仕立ての並木

さて、初夏になると柑橘系のコンテナーでどっと賑やかになるのは、ベルサイユ宮殿ばかりではありません。リュクサンブール公園や、チュイルリー公園の庭園にも、グッと規模は小さいながらもコンテナー仕立ての樹木が栽培されており、夏の季節には賑やかにフランス庭園らしさを演出する小道具となっています。コンテナーを見かけたら、ぜひ注目してみてくださいね。

フランス庭園のコンテナー

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