スプリングエフェメラル(spring ephemeral)とは、その可憐さから「春の妖精」とも呼ばれる球根花たち。春先一番に花を咲かせ、夏から秋には枯れて地上からは姿を消しつつ、次の春を待つ野の花たちです。
冬の終わりから早春のこの時期、ベルサイユ宮殿の庭園や公園に現れるスノードロップ(待雪草)は、スプリングエフェメラルの中でも一番早く、2月中旬には最盛期を迎えます。
寒い朝、しっかりと閉じた状態のスノードロップの姿
スノードロップの魅力その1:エピソード
まだ寒々とした時期に、凛とした姿で花を咲かせるスノードロップを発見すると、長い冬の終わりと春の訪れが感じられて、なんだか特別な、とても嬉しい気持ちになります。
そんな特別感が様々な着想を与えるのか、西アジア〜ヨーロッパに広く分布する植物ということもあるのか、スノードロップにまつわるエピソードは、実にたくさんあります。
イヴを慰めるスノードロップの花
エデンの園を追われたアダムとイヴ。最初の冬を迎えると草木の緑はなくなって雪景色の冬を迎えます。草木や花が姿を消したその姿を嘆くイヴを憐れんだ天使が、彼女を慰めようと一面の雪を花々に変え、それがスノードロップになった、というもの。
スノードロップの花言葉の「慰め」や「希望」はこのお話から来ているともいいます。
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スノードロップの魅力その2:冬の終わりと春の始まりを告げる花
イギリスでは、聖燭祭(聖母マリアのお清め)の日(2月2日)にスノードロップを摘み集めて持ち帰ると家が清められるという言い伝えがあるそうです。
冬至と春分の中間くらいに当たる聖燭祭の日は、ケルト暦の冬の終わり、春の初めの日のインボルク(2月1日)にも重なります。ヨーロッパではクリスマスの飾りを外したり、クリスマスツリーを燃やしたりする習慣もあるそうで、スノードロップの花が咲く頃は、冬が終わって春を迎える準備をする、嬉しい時間の到来でもあります。
スノードロップの魅力その3:白い絨毯
スノードロップは冷たい空気の中でしっかりとティアドロップ型に閉じたまま、あるいは少し暖かくなるとウサギの耳みたいにフワッと開いた花が風に揺れる、ひとつひとつの繊細な姿が可憐で美しい花です。
と同時に、木々が落葉して光がよく入る林床の群生する花々が、森の白い絨毯のように咲き広がる姿がまた見事です。まるで森が魔法にかかったよう。何度見てもハッとさせられ、いつまでも眺めていたくなるほど。
スノードロップの白い絨毯が広がる森の魔法の季節。
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スノードロップの魅力その4:スノードロップマニア
ヨーロッパ〜西アジアでは約20種が存在するそうですが、ベルサイユ宮殿庭園や公園で群生するのは、そうしたスノードロップの中でも一般的によく知られるGalanthus nivalis (common snowdrop)です。自生して絨毯を作っている姿で見かけるのは、この種が多いような気がします。
ところで、海を越えた園芸大国イギリスでのスノードロップに向ける愛はもっと熱烈で、2000種に近い交配種・園芸種があり、スノードロップ・マニアと呼ばれるガーデナーたちが存在するほど。
通常は緑色の花の模様が黄緑だったりする様々な希少品種があって、思いもよらない高値で取引されるもあると知ってびっくり。Garden illustratedの記事によれば、昨年のebayが記録したスノードロップの球根1球の取引最高価格はなんと£1850(約30万円)。
スノードロップのコレクションが自慢のガーデンや、スノードロップに特化したガーデンフェアもあるのだそう。
自然の森の風景をごく自然のまま愛でる、では収まらない園芸熱は流石イギリスなのかなあと感心しつつ、わざわざ庭を訪れる季節ではないから行きにくいけれど、いつか訪れる機会があると良いなと思います。