媚薬になる植物、というとちょっと怪しげ?でしょうか。
現在は一般的な食材となっているハーブや野菜にも、歴史を遡ると、様々な薬効や効能があるとされて、薬として用いられていたものが沢山あります。例えばタマネギも、かつては催淫効果がある媚薬扱いされていたのだとか。昔の人々は現代ほど刺激の強い嗜好品の刺激物質や化学物質に晒されていなかったので、薬効が顕在化しやすかったという説もありますが、確かに、チョコレートなどもかつては最初は惚れ薬として珍重されていた時代もありました。
媚薬になるかも?の庭の植物5選
さて、庭を彩る植物にもかつては媚薬効果が謳われた草花が様々あります。植栽の計画の中にちょこっと忍ばせてみるのも面白いかも知れません。
1. サフラン crocus sativus
サフラン(薬用サフラン)はアヤメ科の多年草で、秋に咲くクロッカスの1種です。花の真ん中の赤い糸のような雄蕊を乾燥させたものが、香辛料や着色料として使われる部分になります。
世界で最も効果な香辛料と言われるサフランは、ヨーロッパでは古代ギリシア時代から香辛料として使われており、血行改善効果や更年期障害、婦人病の予防、抗うつや不眠への薬効やストレス緩和、ホルモン調整、性欲促進の媚薬効果など、様々な効能があるのだそうです。
ちなみにイヌサフラン(colchicum autumnale L.)主にコルチカムと呼ばれる観賞用のクロッカスもあり、こちらは姿形は似ていますが、なんとトリカブトを超える猛毒植物。なので、絶対に食用してはいけません。
2. セイボリー Satureja
セイボリーは地中海沿岸が原産地の、乾燥した気候にも強いハーブの一種で、爽やかな香りが魅力的。かつて16世紀には胃腸薬や催淫剤として使われたのだそうです。
食用ハーブとしては、肉料理や豆料理によく合うとされ、またエルブ・ド・プロヴァンスのブレンドなどにもよく使われます。
写真は1年草のサマーセイボリー(Satureja hortensis)。多年草のウインターセイボリー(Satureja montana)もあり、サマーセイボリーの方が柔らかく風味豊かでハーブとしての評価が高いようですが、ウインターセイボリーは通年収穫できるのが魅力です。
3. ローズマリー Salvia rosmarinus
南仏プロヴァンスやコルシカ島のガリーグ(灌木林)にたくさん自生するハーブの定番ローズマリー(salvia rosmarinusまたはrosemarinus officinalis)もやはり地中海沿岸原産。湿度には弱いですが、日当たりがよければ手間要らずでどんどん育つ、とても丈夫なハーブです。
様々な料理に用いられるほか、ローズマリーは副腎皮質腺に作用し、認知能力を向上する効果や、性ホルモンの分泌を促進することでも知られます。
また、昔からフランスでは、愛と忠誠を象徴する植物として花嫁の花冠に使われてきたハーブでもあります。そういえばエリザベス女王の葬儀の花飾りにも入っていましたね。
4. ハマビシ Tribulus terretris
夏から秋にかけて黄色の小さな花が咲く多年草のハマビシは、体内のテストステロン量を保つ作用があるハーブとして健康食品などに使われており、また中医学やインド医学では生殖能力改善のために何世紀にも渡って使われてきた植物です。花の後には菱形の実がつきます。
日本では温暖な地域の海岸の砂浜や、内陸でも乾燥した場所に自生する植物ですが、近年の環境破壊で絶滅危惧種に指定されているとのこと。
手間がかからず、乾燥にも強いということで、温暖化時代のローメンテナンスのガーデニングに向いていそうです。
5. ハナウド(属) Heracleum
河川敷や野山に咲くセリ科のハナウド属は、ユーラシア、北米、北アフリカに広く分布する約70種類を数えます。日本では主に、ハナウド(Heracleum nipponicumKitag.)やオオハナウド(Heracleum dulce Fisch.)などが知られています。
昔からヨーロッパでは不感症や制欲減退の治療薬として使われてきたほか、フランスではリキュールの風味付けなどにも使われてきました。
5〜6月、小さな白い小花が集まって咲く姿はとても美しい風景を作ります。昆虫に蜜を供給する植物ですが、また種類により、樹液に毒成分がありかぶれたりすることがあるので、取り扱いは要注意です。
特にコーカサス原産のジャイアント・ホグウィード(Heracleum mantegazzianum)については、樹液が肌に触れると重篤な光線過敏を引き起こすので、庭に植えるのは避けた方が良さそう。
さて、媚薬になる植物たち5選、いかがでしたでしょうか。
セイボリーやローズマリーは日々の暮らしの中ですぐ、お料理やアレンジメントに重宝ですし、元々野生だった植物たちは性質も丈夫であることが多いので、ナチュラルな雰囲気のローメンテナンスなガーデニングに活かせそう。
最後に、食用植物を植栽に使う際に気をつけたいこととして、例えば、サフランとイヌサフランなど、姿形が似通っていて間違ったら大変なことになる植物もあるので、食用などに使う予定がある場合は、そうしたものが絶対に混ざらないような植栽計画をしておくことは大事です。
(*植物5選は14/02/2023付けのフィガロ紙を参照)