ランブイエ城、歴代君主に愛された森と城館と庭園

ランブイエの森と城館

ランブイエ城はパリの南西50kmほどに位置する、14000haの豊かな森に囲まれた城館です。現在では国有林となっているランブイエの森は、ウォーキングや乗馬、サイクリングなどが楽しめるほか、大統領の狩猟が行われる森としても知られています。

というのも、古くから獲物に恵まれた森として定評があるランブイエの森は、代々のフランス王家の人々が好んで狩猟を行った森でもありました。

その歴史を14世紀まで遡ることができるランブイエ城は、狩猟の館として、この森を愛したフランソワ1世やルイ14世、15世そしてルイ16世まで、歴代のフランス王を迎えてきた場所です。その後はナポレオン1世の所有を経て、現代では大統領官邸の一つになり、外国からの数々の賓客を迎えて入れきたことでも知られます。

ルイ14世が自らの宮殿と庭園を作ったヴェルサイユも、元々は父君ルイ13世の狩猟の館があった場所ですが、長い歴史の変遷の中で歴代の君主たちに愛されてきたランブイエの魅力は、まずこの獲物の豊かな森に囲まれた立地だったのだろうと思われます。

ランブイエ城と庭園

合わせて150haほどになる庭園と公園に囲まれたランブイエ城は、14世紀に城塞として作られた当初の姿から、接待や娯楽のための館へ、また所有者の手を変え、といった変遷に応じて、建築にも様々な改変が加わり、現在のちょっと不思議な姿になっています。2000年代に大規模な修復が行われており、城内では室内の見事な板張り装飾が印象的でした。

boiserie rambouillet

時間的に間に合わなかったので参加できなかったのですが、家具調度を備えたアパルトマンのいくつかはガイド付きのみで見学可能のようです。城内では時折展覧会も開催されており、今回展示されていた英国人写真家マイケル・ケンナのフランスの風景の写真がまた素晴らしかった。

フランス整形式庭園

さて、城内から目前に開いた風景は、ル・ノートル設計かとみまごうような古典的なフランス整形式式庭園。これは1699年にこの城を手に入れた、ルイ14世の財務知事だったダルムノンヴィルが作らせた庭園で、庭の中心軸となる正面には大運河を掘らせ、その向こう側にはフォーカルポイント的な白い彫像、さらにタピ・ヴェール(緑の絨毯)と呼ばれる細長い芝地が続く、広々とした眺望が広がっています。

french garden rambouillet

その後、この庭の水景の特徴的な姿ともいえる幾何学的な形の島々と放射状の運河が加わったのは、18世紀前半、ルイ14世とマントノン夫人の間の嫡子であったトゥールーズ伯爵の時代です。当初は芝地で高さが低く抑えられていた島々に、後世になって大量に植林されたのはナポレオンの時代だそうで、当初は現在とはまた違った、さらに広大に開かれた景観だったのであろうと想像できます。

現在は、運河の向こうの島々にはこんもりとした森が見えます。これはこれで良いような。冬枯れの侘びた様子の、静謐な美しさが印象的です。

イギリス風景式庭園

18世紀後半になり、城館と領地を引き継いだトゥールーズ伯爵の子息、パンティエーブル侯爵は、新たに、当時一斉を風靡していた、理想的な自然風景の構成に不可欠であったファブリック(フォリーとも呼ばれる庭園建築)を多用する、イギリス式風景庭園(またはジャルダン・ピトレスク(=絵画的庭園))を作らせます。所々に大きな木々、緩やかに流れる小川には石橋が渡され、田舎家などが点在する中を歩いていくと、まるで風景画の中を歩いているような心地がしてくる、整形式の庭園とはまた全然違う世界観の庭園です。

garden rambouillet
小川には悠々と群をなす鴨たち。

ヴェルサイユでマリー・アントワネットが作らせたイギリス式庭園や「王妃の村里」も、共通した雰囲気を持つ、この頃のフランスの最新流行の庭でした。「自然へ帰れ」のルソーなどの哲学が貴族階級にも受け入れられ、自然への憧憬が高まった時代の気分を反映した庭園空間と言えるでしょう。

18世紀のファブリック、貝殻の田舎家

当時のイギリス庭園には、構成のキーポイントとなる、グロット(洞窟)や中国風の東屋など、幾つものファブリックが作られましたが、現在に残るものはわずか。そのうちの一つが、1770〜80年に建てられた、マリー・アントワネットの友人でもあったパンティエーブル侯爵の義理の娘ランバル侯爵夫人のために「貝殻の田舎家」と呼ばれる小屋です。この種の庭園建築としてはフランスでは唯一残るものだそう。

la chaumière aux coquillages

ひっそりと小川沿いに佇む藁葺きの田舎風の家は、一見したところ、ごく簡素な鄙びた印象です。中に入ってみると、、、

la chaumière aux coquillages

部屋全体が、外観からは想像し難いゴージャスな装飾で埋め尽くされているのにびっくり。まさに「サプライズ」が待っています。しかもこの装飾、よくよくみると大理石などとともに、大量の貝殻で出来ています。


ニッチの中のメダルの中の壺なども、すべて様々な貝殻を素材に形作られたもの。

螺鈿のような高価な素材に混じって、中にはムール貝(左側)などのごくごく身近な貝もいい装飾効果を出しているのが面白い。


ドーム型の天井までどこまでも大理石のモザイクと貝殻で埋め尽くされています。

明らかにわかりやすくゴージャスということではなく、鄙びた外観と贅を尽くした内装のコントラストの遊びの粋な感覚には、宮廷文化の円熟期の魅力が偲ばれます。

続いて、ランブイエの庭のもう一つの見どころ、「王妃の乳製品加工所」も見てみましょう。[次回に続く]

■ランブイエ城のおすすめ参考記事
>マダム・ド・モンタランベールのミュゼ訪問(83)

■ランブイエ城|Château de Rambouillet
>公式サイト(英語)

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