シルヴァカンヌ修道院の回廊中庭、プロヴァンス

プロヴァンスのシトー派修道院3姉妹

南仏プロヴァンス、エクス・アン・プロヴァンスとアヴィニョンの間に位置するシルヴァカンヌ修道院(Abbaye Silvacane)は、ラベンダー畑で有名なセナンク修道院などと並び、プロヴァンスのシトー派修道院の3姉妹の一員に数えられます。

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いずれの修道院も、シトー派の修道士たちが修行に集中する生活のために人里離れた地を開墾して建てたもので、現在でも地の利が決して良くはない、それゆえに美しい自然に囲まれた土地にあります。その中でもセナンク修道院は今世紀に入ってからのラベンダー栽培作戦が功を奏して、プロヴァンスらしさ溢れる憧れの観光地となっているのに対し、シルヴァカンヌ修道院は、ひっそりと忘れ去られたかのように佇んでいるのが印象的です。

シルヴァカンヌ修道院 abbaye silvacance
手前に細長くのびる水場が珍しい教会堂の正面ファサード。

 

シルヴァカンヌ修道院の無の空間、簡素の美

シルヴァカンヌ修道院が建設されたのは主に12世紀から13世紀にかけて、ロマネスク様式のシトー派会の修道院建築の代表的な例です。この修道院は14世紀頃まで隆盛を誇りましたが、その後は衰退を辿りました。20世紀末から今世紀初めに大規模な修復が行われ、現在は、ほぼかつての姿を窺うことができる状態になっています。

厳格なまでに簡素な建築空間はシトー会の修道院の共通項目ですが、見学者もまばらな冬のシルヴァカンヌ修道院のがらんと広い教会堂に立つと、何もない祈りの空間と僅かな光の効果は絶大で、ここに佇んでいると、神社の聖域のような神聖な空気に包まれるような心地がしてきます。

abbaye silvacane

教会堂ばかりでなく、教会堂に付属する修道士たちの寝所、唯一大きな暖炉のあるいわば暖房室、唯一会話が許されていた中庭を囲んだ回廊など、典型的な修道院の各所において、偶像崇拝を排したシトー会修道院は、極力装飾をも排しています。シルヴァカンヌはその中でも多少装飾が多めなのだそうですが、柱頭のごく控えめな植物紋様など、本当にわずかばかりです。この全体を貫く簡素さが、時を超えた普遍の美に通じるのでしょう。


こちらは修道士たちの寝所


ヴォールト(穹窿)が美しい、唯一の暖炉がある部屋、暖炉の側の窓際の席は心地良さそう。

 

修道院の中庭と回廊

修道院建築でほぼ必ず出会うのが、正方形の回廊に囲まれた中庭です。
中庭側の柱廊部分は、腰掛けられるような高さになっていて、修道士たちが自然光で静かに読書をしている様子が思い浮かびます。静かに瞑想していたのかもしれません。修行のためにお喋りも一切禁じられており、日常生活の中で、この中庭回廊は唯一会話が許される空間だったのだそうです。と言ってもきっと随分控えめな低い声で話をしていたに違いない。鳥の囀りが聞こえる低いツゲの刈り込みが並ぶ中庭では、流れた長い歳月を思わせるイトスギの大木が落ち着いた緑の風景を作っています。

欠けた部分がやはりツゲの列植でカバーされた手水水盤の水は、現在は枯れてしまっていますが、20世紀の最初の頃までは敷地内の水源から引かれた水が湧いていたそうです。

幾何学的な植栽の配置は建築の続きのようで、ほとんどが常緑の樹種ゆえに、季節の変化も少ないタイムレスな緑の空間ですが、植物の存在と流れる外気が、中庭と回廊に明るい生命感を与えています。

ロマネスク建築と現代アート

かつての食堂は、ロマネスク建築と同じようにミニマルでありながら、今日の感性が明らかに見てとれる現代アートのマリアージュが見られる空間になっていて、静謐さはそのままに、歴史的空間に新しい色彩が重なったような新鮮さが織り込まれたように感じられました。


仏人アーティスト、サルキスによるステンドグラスと椅子が設置されたかつての食堂

現在のシルヴァカンヌ修道院には修行生活を営む修道士はもはやおらず、大規模な修復ののち一般公開されています。季節の良い時期には、展覧会や各種イベントなどが行われており、パーティーなどのためのスペースレンタルもできるのだそうで、そうした機会には、今回訪れた時に感じた閑静さとはまた違った現代の顔を見せるのだろうなあと想像します。

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