女王陛下の棺の花飾りの逸話
世界が注目したロンドン、ウエストミンスター寺院でのエリザベス2世の葬儀。イギリス王室の威厳と伝統を目の当たりにするこのイベント、中継をご覧になった方も多いのではないかと思います。私自身は旅の途中でリアルタイムで見られなかったのですが、知人に聞いたところによれば、パリでも多くの人々がリアルタイムでこのイベントを視聴していたために、街の動きが一時止まるような感じだったとか。なんだかワールドカップみたいですね。
イギリス国民のみならず、世界中の人々から敬愛されたエリザベス女王、実はフランス国民にも大人気でした。国王と王妃をギロチンにかけた国フランスだからこその、生き続ける王家に対する憧憬のようなものがあったのだろうと思います。
ところで葬儀の映像に映る、王権を象徴するオブジェとともに女王陛下の棺を飾った花飾りにハッとしました。王室の発表やメディアの報道によると、花飾りに使われたのは、チャールズ3世が選んだ王室の庭の花々で、手書きのカードも載せられていたそうです。
人生の節目を飾る庭の花々
やはりチャールズ3世の希望で、オークの枝とコケをベースにするサスティナブルな方法で作られたこのフラワー・アレンジメントに使われたのは、バッキンガムパレス、クレランスハウスの女王陛下の庭園と、チャールズ3世のハイグローヴハウスの庭園の、3つの王室の庭園で摘み取られた庭の花々。
人生の最後の門出を飾るのが庭の花というのは、さすが園芸大国イギリスの王室です。自分の庭の花に見守られて旅立てるなんて、なんと素敵なことだろうかと、羨ましくなってしまいました。
アレンジのナチュラルな美しさもさることながら、チャールズ3世自ら選んだ庭の花々には、様々な象徴やエピソードがこめられているということにも惹かれます。
それぞれの花が象徴するもの
イングリッシュ・ガーデンの風景がそのままアレンジメントになったような花飾りの中には、何種類かのバラ、アジサイ、スカビオザ、セダム、ダリア、ローズマリー、イングリッシュ・オークそしてマートル(ギンバイカ)などが入っているそうです、見えるかな?
ローズマリーは記憶、イングリッシュ・オークは愛の強さなどを象徴するなどの、それぞれの花の意味がタペストリーのように散りばめられ、花飾りそのものが女王の人生を語り、残された方々からの愛と感謝を運んでいるかのようです。
花飾りのマートルの木枝
写真では見えにくいのですが、アレンジの中に入っているマートル(和名:ギンバイカ)(Myrtus communis)の小枝にも、素敵なエピソードがあります。
マートルは地中海原産、良い香りのする常緑の花木です。和名から想像できるように花の姿はちょっと梅にも似ています。ヨーロッパでは古代ギリシャから神聖な樹として大切にされ、お祝いの木として結婚式などに使われてきたそうです。もちろん、エリザベス2世の結婚式のブーケにもマートルが使われました。
そのマートルは、かつて女王の結婚式を祝うために王室の庭師たちが庭で摘み取って贈ったものだったのだとか。さらに、そのブーケのマートルの枝は挿木されて、大切に女王の庭園で育てられており、葬儀のアレンジに使われたのは、挿木から育てられたマートルの枝なのだそうです。
(写真は地中海の島で見かけたマートルの群生)
香りも良くて、フラワーアレンジメントにも使える、しかもおめでたい常緑低木樹のマートル、ぜひお庭に取り入れてみたい花木の一つですね。
庭の花々を日常に飾ろう
庭の花々で作られた花飾り、イングリッシュ・ガーデンがそのままアレンジメントになったような姿はそれだけで素晴らしく、一つ一つの花のエピソードを紐解けは、そこには美しい詩のように温かなメッセージが込められている、このような使い方ができるのは、庭と花々との奥の深い付き合いあってこそだなあと、深々と感銘を受けました。
花屋さんで求める、スッと茎の伸びた切花のために生産された花々はもちろん素敵だけれども、もっと庭の植栽から、室内に飾る花へと、シームレスに花や樹木を愛でる付き合い方をしていけるといいなあ、と改めて思う次第です。