プロヴァンスの風景とは切っても切れないプラタナス、特に夏には、村や街を繋ぐ幹線道路沿いの並木や、村や街の中の広場の大きなプラタナスの木々の木陰がひときわ心地よく感じられます。
外来樹種のプラタナス
プラタナスは、ギリシア時代から知られる、4000年以上も生きることができるという長寿樹種。プロヴァンスの風景といえばプラタナスですが、フランスに導入されたのは17世紀と、歴史的には比較的新しい樹種でもあります。そのプラタナスの並木が本格的にフランスの風景を作るようになったのは、18世紀ナポレオンの時代でした。
ナポレオンとプラタナス
ナポレオンは、戦場に移動する軍隊の兵士たちに降り注ぐ厳しい夏の日差しを和らげるために、街道沿いにプラタナス並木の植樹を命じたのです。戦場に着く前に兵士たちがぐったりしてしまっては元も子もありません。
現在でも、夏のプロヴァンスを車で走っていて、プラタナス並木の下に行き着くと、その爽やかさにホッと嬉しくなります。もう、ずっとその下を走っていたいくらいになります(ウチの車は今エアコンが壊れたままなのでなおさらです(笑))ので、ナポレオンの目の付け所はさすがだったのです。
生物多様性のオアシス
さらに近年注目されているのが、生物多様性のオアシスとしてのプラタナス並木の役割です。木陰が心地よいだけでなく、その緑のコリドール(回廊)は、野鳥や昆虫の餌場や棲家、また地衣植物などの棲家にもなります。プラタナスが一本あるだけで、実に何十種類もの生物がそこに暮らすことが出来るのだそう。
プラタナス並木の危機
夏の日差しの厳しい時期に、街道に涼やかな木陰を作るプラタナス、大きく育った並木になった実に姿は見事で、その美しい風情はカテドラルにも例えられるほど。そんなプラタナス並木ですが、いろいろな危機にも瀕しています。
というのも、かつては街道沿いのプラタナスは万が一の自動車事故の際の死亡率が上がるので危険、ということで切られそうになる事態が多数起こりました。
さらに、第二次大戦末には南仏コートダジュールから、これにかかると数年で枯死してしまうという外来の細菌性のプラタナスの病気がじわじわと広がります。単一樹種の並木は整った姿が美しい反面、病気や害虫が発生した場合には一気に広がってしまいます。
プロヴァンス中で多くの被害が発生し、かなりの部分を切り倒さなければならない事態となってしまいました。ユネスコの世界遺産にも登録されているミディ運河(le Canal du Midi)沿いの見事なプラタナス並木も同じ事情で、切り倒されて再植樹された部分が多くあります。
未来の並木道は?
再植樹の問題点は、この病気への有効な対処法が今のところ見つかっていないため、枯死したプラタナスの後に、また同じようにプラタナスを植えるわけに行かないことです。また単一樹種の並木は害虫や病気へのレジリエンスが低いという観点からは、複数樹種を取り混ぜた並木の構成が推奨されます。となると、歴史的なプラタナス並木の景観は難しいということになります。
人間より大分長寿の樹木でも、やはり有限なる生き物。時代と共に景観が変わっていくのは自然な流れと観念し、未来の並木道を育てる、今はそんなタイミングなのかもしれません。