ローマのヴィラ・メディチ(Villa Medici)
スペイン階段を登りきったピンチョの丘に、
現在は在ローマ・フランス・アカデミーとなっているヴィラ・メディチがあります。
16世紀に枢機卿フェルディナンド・メディチ(1549-1609)が土地を購入し
既存の建物を豪勢なヴィラに仕上げ、周りに庭を作らせたもので、
ローマにおけるメディチ家の権勢を表す場となりました。
表側の建物のファサードは印象は控えめな印象ですが、裏の庭園側は、一転してギリシャ・ローマ古代美術の蒐集家だったフェルディナンド・メディチのコレクションのアート・ピースが装飾としてはめ込まれたゴージャスな作り。一方館内の室内装飾は、ローマの他の宮殿に比べるとだいぶ地味に見えなくもないですが、実は画家バルテュスがかつてヴィラ・メディチの館長だった時期にリノベーションを手がけた渋めのテイストがおしゃれです。と、建物にも色々見所があるのですが、まずは庭園へ。
ルネサンスの庭、永遠のクラシック
ヴィラに隣接する広場、カレと呼ばれる仕切られた区画、林(ボスコ)の主に3つのエリアからなる8haほどの広さの現在の庭は、ルネサンス期にフェルディナンドが作らせた庭の構成に沿って修復されています。
庭の奥の「鳥のパビリオン」と呼ばれる小さな建物の中に、見事なフレスコ画の部屋があり、その一部に当時の姿が描かれているので、基本的な全体の構造を見ることができます。
建物から見下ろした庭の一部。刺繍花壇は簡素化されているけれど、生垣で囲う様子などは、ほぼ忠実に当時の庭園の様子を彷彿とさせます。
そしてイタリア庭園の常緑樹の直線に刈り込まれた生垣と、ポイントに大理石彫刻は西洋庭園の永遠のクラシックとでも言える組み合わせ。
ドラマチックな古代彫刻インスタレーション
生垣に囲まれた四角い区画は基本的に芝生になっています。こちらはフェルディナンド卿のコレクションから、ギリシア神話のニオべの群像を庭園内にインスタレーションしたもので、バルテュスの手によるもの。(ニオべの子どもたちが次々と殺害されていくシーン)←神話について詳しくはclick
グラウンドカバーにアカンサスの葉っぱが茂るあたりが南欧っぽい。
ちなみに、庭園の管理は除草剤や殺虫剤を使わないナチュラルな手入れが行われているのだそうです。
(芝生というより、緑地という感じのざっくり感はそこから来ているのかも。)
ところで、何より気に入ったのは、先ほども触れた「鳥のパビリオン」です。
鳥のパビリオン、鳥かごの天井フレスコ画
庭の奥にある「鳥のパビリオン」は、フェルディナンドが作らせた庭園建築。
その建物の天井は、数々の鳥や果実草花が描かれた見事なフレスコ画で飾られています。
精密な描写で描かれた様々な生き物は、そのまま当時の植物誌や動物誌とも言えるほど。
例えば中央に見えているのはごろっと丸い七面鳥、当時はインドの鳥と呼ばれていたのだとか。
スタッコ・ロマーノと呼ばれる大理石粉末を含む塗料の艶やかな白の仕上げが特徴的なこの天井画は、画家ヤコポ・ズッキによって描かれた、オーセンティックなフレスコ画の手法の16世紀の作品。長い間別の漆喰の層で覆われていたものが20世紀になって再発見され、10年ほど前に大々的な修復作業が行われて当時の輝きを取り戻したのだそうです。
ずっと見ていても見飽きないフレッシュさに満ちた、素敵なフレスコ画です。
トレリスに蔦が絡まる様子などは、当然のことながら、数世紀前も今もあまり変わらない。
よく描かれた自然の写実の魅力も、永遠のクラシックといえるのかもしれない。
ちなみに、ルネサンス時代の庭園というと、そのまま残っていることはかなり難しく、様々な段階で変更や修復が繰り返されて来ていることがほとんどですが、基本はオリジナルの形を尊重するにしても、同時に歴史的変遷を尊重する、バランスの上で修復計画が進められることが多いようです。
最後に、これは当初からの植栽ではなく、やはりアカデミー・フランセーズになってから、
遡って19世紀に画家アングルが館長職だった時に植栽させたというイタリアカサマツたち。
今はもともとあったかのように場に馴染んだ存在になっているのも印象的でした。
ざっくり駆け足でしたが、ローマのルネサンス庭園、いかがでしたでしょうか?
なかなか注目される機会は少ないけれど、ヨーロッパのフォーマルガーデン(整形式庭園)の基本的な要素がしっかり詰まった永遠のクラシックという言葉がぴったりかなと思います。