パリ植物園(ジャルダンデプラント)の魅力
パリ植物園(ジャルダンデプラント)は、自然史博物館に所属する由緒正しき学術研究の場でありつつも、パリジャン、パリジェンヌたちに絶大な人気の散歩コース。というのも、アカデミックな裏付けと、景観としての心地よさ、美しさ、両方が備わっているのが良いところ。
広い敷地の中は、プラタナスの並木道に縁取られた中央の整形式庭園、バラ園やエコール・ボタニック、エコロジック・ガーデンなどのセクションごとのガーデンがあり、なんとミニ動物園まであるのです。今日は中でも各種高山植物などの珍しい植物の宝庫であるジャルダン・アルパンへ、ヘッドガーデナー、ロマン・ヴィロン氏に会いに行ってきました。
ジャルダン・アルパン(Jardin Alpin)とは
パリ植物園のジャルダン・アルパンは、直訳すると山岳庭園?、つまり高山植物のためのロックガーデンと言ったら良いでしょうか。フランスのアルプス地方や地中海地域などの高山植物を始め、地域や環境の違いに沿ってまとめられた三十数個のロックガーデン風植栽に、ヒマラヤやコーカサスまで(日本や中国、韓国の植物のアジアコーナーもあり)世界各地の高山植物を栽培しています。
こちらはアルプスの岩石で作られたロックガーデン・コーナー。(このような岩石を使ったオーナメンタルな植栽は、ロカイユとも呼ばれます。)
ナチュラルな植栽の中にも、それぞれの植物には、きっちりラベルが付いていて何者なのかはっきりしている。このラベルは植物園のオリジナルで、専門のアトリエで作られているものです。レトロな雰囲気が良い感じです。
植物園自体の歴史は17世紀に遡りますが、ジャルダン・アルパンが設えられたのは比較的新しく、1930年代になってからです。地上レベルを下げ、壁で囲まれ北風から守られたサンクン・ガーデンには、現在では大きく育った古木やいくつものロックガーデンが連なり、ピクチャレスクな美しい景観が堪能できる場所でもあります。
ちなみに温暖化が進む現在のパリでの高山植物栽培の問題は、寒さよりもむしろ湿度なのだそうです。
古木の根が浮いたところにシダをあしらうなど、自由度がある部分のディテールでは、美観への配慮も怠りません。ただ植物標本が栽培されているというのではない、庭としての心地よさ、楽しさも大切と考えて手入れされているからこそでしょう。
灌水はセーヌ川の水を利用
ちなみにパリ植物園の多種多様な樹木植物への灌水には、水道水ではなく、セーヌ川の水が引き込まれて使われているのだそう。
右はジャルダン・アルパンが設置された1930年代に作られた井戸(今も現役)、その横には(ちょっと見えにくいですが)、山岳地帯の小さな清流を思わさせる小川が流れていたり、木々に覆われた日陰があったり、多種多様な植物のための様々な微気候が演出されています。
こちらはナチュラル感がいっぱいの、湿潤なアジアの植物のための植栽コーナー。
思い切り日向のサボテン類コーナー。サボテン類がイコール高山植物というわけではないのですが、ジャルダン・アルパンが作られた時代にブームになっていて大変珍重されていて、植物園の中にも植栽されたという、いわば歴史的な価値からこちらにそのまま鎮座しているのだとか。
ガーデナーは大人気
ヘッドガーデナーのヴィロン氏から、植物のこと、場の歴史のこと、今後の計画などの話を伺いながら、ゆるゆると庭を見て歩いていると、それを聞きつけた来園者たちもどんどん集まってきて、自然と質疑応答が始まり、いつの間にか気がつくと、オフィシャルな見学会のようになっている(笑)。やはり日々この場を育てているガーデナーの方の話を聞けると、同じ場所が、さらに、格段に生き生きとしてくるのが印象的で、人が集まってきてしまうのにも納得です。
秋も終盤に向かう現在は、花もほとんど終わりの時期だけれども、春先には、もっといろんな花が咲き乱れていて、また別の雰囲気でとても美しい、ということなので、季節を変えてまたぜひ訪れたい場所です。