現在のグラントリアノン離宮の建物が作られたのは1687年、大げさな宮廷儀礼を逃れてホッと寛いだひとときを過ごすために(宮廷の様々な典礼を作らせた、その王自身も終いにはやっぱり疲れてきた様子です。)ルイ14世が晩年に作らせたものです。設計はジュール=アルドワン・マンサール。
カラーラ産の白大理石とフランスのラングドック地方産のローズ色の大理石を使ったカラフルな平屋建ての離宮の中央には美しい柱廊が設けられ、宮殿の外側から中の庭園の緑を遠く垣間見ることができます。より軽やかに、瀟洒になってきた建築意匠は、次の時代に繋がる趣味が感じられます。
18世紀の花の離宮、グラントリアノン
グラントリアノンの庭園は、ル・ノートルの流れを汲む正統派のフランス式フォーマル・ガーデン(整形式庭園)です。ル・ノートルの甥、ミッシェル・ルブトーが設計しました。
メインの宮殿の庭園との目立った違いは、建物至近のパルテールに、常にこだわりの花いっぱいの植栽がなされていたこと。
ルイ14世の後を継いだルイ15世の時代、この離宮は「花の離宮」と呼ばれるほどで、常に香り高く美しい、また当時は希少出会った花々が植えられていました:例えばチューリップ、ヒヤシンス、ジャスミン、ユリ、アネモネ、スイセンやストックなどなど。しかも、これらの花はそれぞれ植木鉢仕立てにしたものを、パルテールのボックスウッド(柘植)の囲いの中に組み合わせる方法が開発され、必要によっては日に2回も、花々の配置が取り替えられていたのだそうです。部分的な交換ができるのは、完璧なパルテールの状態を保つのには大変便利ではありましたが、なんとまあ、贅沢な時代でした。
そして現代の花の離宮は?
そして現在も、グラントリアノンの庭園は花いっぱいのパルテールから始まります。
ん?今年はちょっと様子が違うかも?
グリーンのパルテール
宮殿のパルテールの花の植栽というと通常は非常にカラフルなイメージがありますが、今年のグラントリアノンのパルテールの雰囲気はちょっと違います。それもそのはず、今年のこの植栽のテーマはズバリ「グリーン(Vert)」。様々なグリーンの色と質感とフォルムのバリエーションで、当たり前すぎて普段は全然目立たない、けれども本質的にとても重要な植物の緑の部分、そのグリーンを前面に出すことで、普段は目にみえにくい、世界の土台である自然やエコロジーに思いを馳せてもらおうというテーマです。セレクションの中には、現代のエコ事情に沿った乾燥に強い植物や、人間の健康と植物の関係を想起させる、バジルやタイムなどの香り高く様々な薬効もあるハーブ類をはじめ、エディブルフラワーなども組み込まれています。
ふわふわのパニカムが雲のよう。グリーンのモノクロームの第一印象は、この場所には地味だなー、とつい思うのだけれども、ずっと見ていると不思議に可愛くなってくる。
円錐形のトピアリーに巻きついている、クレマチスやパッションフラワー、ホップなどのつる植物ですが、実はこれも演出でした。
黄緑の花がキュートなジニアやにょろっと変わった形のユーフォルビアなど、こだわりのセレクトの植物たちは、よく見てみると結構楽しくなってくる。
この挑戦的なパルテールの植栽デザインは、トリアノンのジャルディニエ(庭師)たちの作品です。前年の秋にコンセプトが立ち上がり、テーマに沿った植物のセレクト、播種・育成のち5月頃に植込みと、1年がかりで準備されています。来年はどんなテーマになるのか、今からちょっと楽しみになってきました。
ダリアの花もそろそろ満開
グラントリアノンの庭園の、さらに奥に進んでいけば、今度はクラッシックにダリアが盛りだくさんの花の植栽が待っています。さすがに全部アヴァンギャルドな植栽にしてしまうと、ちょっとクレームものになりそうですが、いい塩梅のバランスが取れています。そして、グリーン淡彩の後には、様々な品種のダリアの色彩が一層に引き立って見えてきます。
その先の池の周りの植栽も、また違う雰囲気。
これだけぎっしり植え込んだコレデモカ感は、毎年変わる花壇の植栽ならではです。
グランドリアノンのグリーンの植栽デザインのパルテールは10月末まで。ちなみに解体した後の植物は全て一律廃棄ではなく、使えるものは他の場所に植え替えるなど、最後まで生かす努力がなされています。