ヴェルサイユのボスケ、歴史のなかの不変と変遷
ヴェルサイユの庭園は、
宮殿から大運河に向かう大きなパースペクティブの空間と、
十数個のボスケと呼ばれる、樹木に囲まれた小庭園で構成されています。
それぞれに個性的な庭空間であるボスケの殆どは、
一旦はルイ14世の時代にルノートルによって作られたものの、
当時の姿を留めているボスケもあれば、
何度も改装されているものもあり、
ヴェルサイユの庭園の歴史の変遷と不変の両方を感じさせます。
ヴェルサイユ庭園は世界中の人にとって、
フランス整形式庭園の代表です。
もちろん創設時には、
当時の最新の技術と芸術表現の集大成の場でしたが、
今となっては歴史的な意味合いが極めて重い場所なので、
新たなクリエーションを組み込むのがかなり難しい庭です。
水の劇場のボスケは、ルイ14世の時代に
ルノートルによって作られた小庭園のひとつです。
名前の通り、噴水によるあらゆる水の芸術表現が堪能できる
ボスケとして作られましたが、
噴水装置が極めて複雑な作りになっていたゆえに
維持が難しく、18世紀には姿を消してしまっていました。
ヴェルサイユ庭園内、唯一の現代ガーデンが誕生
この水の劇場のボスケが、
修復プロジェクトで新たな姿となったのが今から6年ほど前です。
歴史的庭園としていかに修復すべきかという議論がありましたが、
すでに18世紀には姿を消してしまっていたという歴史事実も踏まえ、
21世紀の新たなボスケとして再生されるためのコンペが行われ、
ペイザジスト(ランドスケープデザイナー)のルイ・ベネシュの設計、
アーティスト、ミシェル・オトニエルとのコラボレーションによる
新・水の劇場ボスケが作られました。
名前が変わっていないことからも想像できるように、
ベネシュは、この場所の歴史をリスペクトする形で
新たなボスケを着想したと語っています。
少し高低差のある元々の地形を活かしつつ、
噴水池は劇場のごとく、オープンスペースの中心で
水のダンスが繰り広げられます。
周りを囲む緑の空間は、
西洋ウバメガシなどが植栽されたプロムナード。
オトニエルの、彼のアイコンであるベネチアングラスを使った噴水彫刻は、
ルイ14世自身の作ったダンスのステップを表現しているのだとか。
中を散策していると、ボスケの中にいるというより、
どこかの都市公園にいるような気分です。
実は、ボスケに残っていたイチイなどの既存の樹木を残す配慮もしていますが、
空間の構成が現代的になっているので、やはり現代に戻ってきた感じがします。
これは好き嫌いが分かれるようですが、完成後6年が経ち、植栽も充実してきて、
ようやくいい感じになってきています。
現代のボスケのエントランスはボタニカル
さらに、挑戦的で印象的なのが、
ボスケへのエントランスです。
緑のトンネルのようなアプローチを進むと
行き当たるのは何も置かれていない彫刻台と見事な白いフジの花。
昔日であれば、または伝統的には、ここには何らか
神話由来の大理石彫刻などが置かれる場所が、
空の空間にされ、植物がその空間を占拠する。
実はかなり挑戦的な、象徴的なエントラスではないでしょうか。
やがて、このボスケも我々の時代を象徴するつくりだったね、
ということになり、いつか、
何かもっと違う形の緑の空間が当たり前になる時が来るのだろうなあ。