ディレク・ジャーマン、地の果ての希望の庭
現代のアーティストの庭といったらまず頭に浮かぶのは、
イギリスの映像作家ディレク・ジャーマンの
プロスペクト・コテージ。
エイズと診断されてから、
ドーバー海峡に面した原子力発電所危険地域にある
ダンジェネス村の漁師小屋に移り住み、
死に至るまでの7年間、庭を作って過ごしたそうです。
実際に訪れたことはないのですが、
随分昔に見た写真集『derek jarman’s garden』が印象的で、
繰り返し気になっていたのが、
なぜか昨日の夜半から頭を離れず……
現在Covid-19対策で疎開中のため写真集も手元にはなかったので、
webを見て見たら意外とたくさん、
しかもステキな記事を見つけました。
fa-arrow-circle-rightOPENERS 松永 学 Vol.3 デレク・ジャーマンの庭
こちらは映像です
fa-arrow-circle-rightProspect cottage, Derek Jerman
そしてロンドンのガーデンミュージアムでも、
今春ディレク・ジャーマンの庭の展覧会が開かれているはず、
なのですが、新型コロナの影響で
ミュージアム自体が閉館ですね。
会期は7月までの予定なので、
それまでに状況が落ち着くと良いのですが。。。
彼の死後を引き継いで管理していたパートナーも2018年に亡くなり、
コテージが売りに出される、
ジャーマンが創ったコテージと庭の姿が失われてしまうかもしれない!
という危機があり、
彼のミューズだった女優ティルダ・スウィントンが
クラウドファンディングを立ち上げるなど、
保存のためのファンド・レイジングの一環で
ガーデンミュージアムの展覧会が行われることとなった様子です。
ジャーマンの庭は
彼のアート作品のインスピレーション源であり、
彼のアートそのものでもあった、
と多くの人が考えています。
アートになる庭とそうでない庭があるのか、
あるとしたらその違いは何か、
というような疑問は当然わいてくるのですが、
それは少し置いておくとしても、
印象派の画家モネの庭が、
晩年のモネの作品のインスピレーション源であったばかりでなく、
庭そのものが彼の最高傑作だった、
というような話を思い出します。
そしてそのモネの庭を訪れたディレク・ジャーマンは、
「なんて言うコントラストだろう。
私のダンジェネスの砂漠とくらべれば……」
という言葉を残しているのだそうです。
庭は楽園の再現?
古代の、庭の始まりは楽園の再現、だったと言われます。
水のない砂漠の国では、噴水に水音がせせらぎ、
柑橘類が茂る、囲われた安全な心地の良いオアシス。
時代が進むに従って、
庭はどんどん周りの風景を取り込み、
その空間を拡大していきますが、
庭は常に人が安心、安全でいられる美しい場所として
構想され、創られました。
ジヴェルニーのモネの庭には
まだこの楽園的な感覚が素直に生きています。
この世の最良の美しい草花を集めた心地の良い空間。
プロスペクト・コテージの庭には、
庭と外界を区切る囲いはないようです。
外界と庭との敷居はなく、
通りかかりの人もすっと庭に入ってこられる。
乾いたグラベルや生命力が強そうな海辺の植物たちや、
海岸で拾った流木や石で構成された庭は、
アーティストの独自の世界観の表現であるとともに、
そのまま外界に繋がったその一部でもある。
庭の境界は地平線にまで延長され、
その荒涼とした乾いた原野の眺めは原子力発電所。
古典的な庭のあり方のパラドックスでありながら、
人の心を慰めるような日々に寄り添う植物が集められた、
やはり庭の原型のような趣も漂う。
実際に訪れることができない者にすら、
強い印象と様々な問いを投げかけて来る、
この庭そのものに、何か自律的な生命力が備わっているのでしょうか。